イタリアの床屋と伊達男

旅の楽しみの一つに、『思いがけない地元の人とのふれあい』があります。
それは帰国してしばらく経っても、思い出しては、ついニマ~ンと顔がほころぶ嬉しい余韻を残してくれるのです。

フィレンツェから車で1時間ほど行ったところにある、コッレ・バル・デルサという古い町でのこと。

フィレンツェのドゥオモ建設を最初に担当したアルノルフォの生まれ故郷で、今はクリスタルガラスで有名なこの町は、山の上の旧市街(colle alta=高いコッレ)と、山の下の新市街(colle bassa=低いコッレ)に分かれています。

山の上の街を歩き始めてすぐ、オッ、向かいの通りに『床屋』を発見。

ひっそりした古い石造りの街は、派手な看板やネオンサインなどないので、通りすがりに開け放した戸口からヒョイとのぞいて初めて何の店か分かるのです。

車道を隔てた向かいの床屋の中では、ちょうど、白髪まじりのクリクリ縮れっ毛のおじさんが、ハサミを手に、30代のイタリア伊達男の髪をカットしてるところ。

あっ、素敵ね!
重く無表情な石の街並みに、店内だけポッと明るい電灯の光に包まれて、人々の和やかなぬくもりの空間。
ナンだか懐かしい・・・子供の頃を思い出した時のように、ハートにモヤモヤッと心地よい感情がこみ上げて来ます。

ノスタルジー漂う光景に、思わずカメラを取り出し、シャッターを切ろうとしたその瞬間!
ブィ~ッと、一台の車がファインダーいっぱいに迫り、、、、「ん~・・・・・!」
店のまん前に駐車した車で店内がすっかり遮られてしまって、床屋のおじさんは闇の中。

『しゃあない、じゃ帰りに取ろっと』 写真をあきらめて街の中へ入ります。

石畳の坂道を登る道すがら、年月を経た、渋い赤茶色の石の街並みの間からは、周りに広がる丘陵の緑が鮮やかに顔をのぞかせ、ハッとするような色彩のコントラスト。
あや~、美しい。
何軒かクリスタルガラスの店が並ぶ通りをまっすぐ行くと、突き当たりは、下の街が見下ろせる広場です。

新しいレンガを敷き詰めた広場は、上と下の街をつなぐ超モダンなガラス張りのエレベーターが、まるでオブジェのように据えてあり、 さすが、デザインの国イタリア!古きものと新しきものが、ナンの違和感もなく、素晴らしいバランス感覚で、静かに歴史を刻んできた街に溶け合っています。

こんな古い小さな街は、ただゆっくり、ゆったり、ブラブラと、ナンの当てもなく歩き、
気になったお店に「ちょっと、見せてね」と入り、
道端でおしゃべりしているじいちゃん・・・鮮やかなオレンジ色のセーターが似合ってるね、
ばあちゃん、杖ついて坂道大変だね・・・・でも黒く長いスカートが中世の魔女チックでかっこいいね、 窓辺のワンコ、ナニ考えてる~?、カラフルな洗濯物・・・おチビ子がいるな、、、てな感じで街の人々や、雰囲気を楽しむのが、わたしのお気に入り。

戻り道、あら、むこうから来るスリムでエレガントな男の人。 花束を胸に抱え、オッ、いい男!
細身のダークスーツでしっかり決めて、見るからにウキウキ、幸せさ感が伝わってくる。フム、これから彼女に会いにいくんだ。
小さい顔で足長ッ、しかもハンサム!イタリア男は様になるね、花束がかっこよく似合うから、ずるいよね~、と、絵になる人種に、胴長・短足な日本人は、ちと憧れとジェラシーを感じつつ、すっきり整えられた髪に、あれっ?・・・・

・・・さっき床屋でカットしてもらってた彼だ!

「あ~ぁ、間に合わなかった~・・・せっかくのいい被写体だったのに、、、がっかり」

 

ベストショットを撮り逃した悔しさに、床屋の向かいにさしかかった時、未練がましく、また店内をのぞきます。

・・・・と・・・!♪

『なんて素敵な、ひげそりおじさん♪』

顔中真っ白いシャボンに包まれた、人のよさそうなおじさんが、ひげを剃ってもらっている最中ではありませんか!

今度こそ、早く、早く、カメラ、カメラ!

でもまだ店先にはさっき邪魔した車が!

チビのわたしは、側の公園の石段に駆け上り、高い所から背伸びして撮ろうと・・・・ハッ、床屋のおじさんがこっちに気がついた。

「撮ってもいい~?」

「いいよ~」

万国共通のジェスチャーで了解を取り付け、カシャッ!
すぐ確認できるのがデジカメの有難さ、『ん~、やっぱり車が邪魔っ!』

ええい!こういう時のわたしの行動は素早い。一目散に走って通りを横切り、息を切らせながら、、、思いっきりの笑顔で、店の中に声をかけます。
「Sucusi(=すみません)、もう一枚取らせてもらえますか?」

ちょっとひげ剃りを中断して反対を向いていた2人は、飛び込んできたわたしに合わせるかのように、オッと、あわててポーズをとります。
白いシャボンのおじさんは、サッと椅子の背に寄りかかり頭をつける。床屋はすかさずカミソリをあてて、何事もなかったかのようにひげ剃りを続ける。

その慌てふためきのテンポとしぐさは、子供の頃に見た、懐かしいヨーロッパのコミカルな映画の1シーンのよう。

笑いをかみ殺しながら、東洋から来た旅人の頼みに気さくに応えて、ポーズをとるおじさん達。

写真に残った表情からは、温かい気持ちがあふれ出て、思い出すたび、イタリアの田舎町の優しい空気に包まれるのです。

 

Grazie mille ! (=い~っぱい、ありがとう!)

 

★フィレンツェからは、SITAのバス
Poggibonnsi(ポッジボンシ)経由 Siena(シエナ)行きで、
バスはColle bassa(低いコッレ)の P’za Alnolfo di cambio(アルノルフォ・ディカンビオ広場)に着きます

注・・・・・情報は時として変化しますので、フィレンツェのバス会社でご確認を